解説
「生きる」とは何か。残された人生をどう「生きる」か。巨匠・黒澤明監督が「生と死」という普遍的なテーマを、家族の断絶や官僚主義への批判を交ぜながら描いた人間ドラマ。死期を知る主人公の葛藤と希望を描く前半から一転、回想形式で進む後半の構成が見事。主演は本作が単独初主演作品となる名優・志村喬。ふくよかな印象のある志村が、頬骨が見えるほど減量して鬼気迫る演技を見せた。「ゴンドラの唄」が哀愁を誘うラストシーンが印象的。1952年度芸術祭賞受賞。1952年度キネマ旬報ベストテン第1位。
物語
皆勤30年、無気力に仕事をこなす役所勤めの渡辺(志村喬)は、胃癌で余命わずかだと知る。絶望した渡辺は役所を無断欠勤。息子夫婦に打ち明けられず、夜の街へ繰り出し貯金を遣い果たそうとする。朝帰りの途中で渡辺は部下の若い女性(小田切みき)と再会。無感動の役所仕事に嫌気が差した彼女は、玩具工場へ勤めると言う。彼女の「ものづくりは楽しい」と話す生き生きとした姿に、渡辺は「生きる」希望を見出す。渡辺は今までの自分の仕事ぶりを見つめ直し、ある決心をする。
こぼれ話
本作では約50人の俳優が出演しているがキャスティングは難航し、脚本が出来上がるまでに、決まっていたのは主人公の志村喬のみだった。その後約1ヶ月半をかけ、セリフの無い通行人に至るまで黒澤自身が面接を行い選んだという。当時は映画会社専属俳優が他社作品へ出演することが難しく、本作でも他社にオファーした大半が断られている。このことについて黒澤は「許す限り各社が融通し合えばいい。特にバイ・プレイヤーは、彼らが好きな作品なら他社のものでも出してやらなければ可哀相ですよ」と語っている。