解説
老女優の身に起こる様々な出会いと出来事を通して、「人間の老いと死」を静かに、時にコミカルに描いたヒューマンドラマの名篇。撮影当時80歳を超えていた新藤兼人が監督。日本を代表する女優・杉村春子と乙羽信子が自然体のかけ合いを見せる。認知症にかかる登美江に、本作が45年ぶりの銀幕復帰となる朝霧鏡子。第19回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめその年の映画賞を独占。公私にわたり新藤兼人監督を支えた乙羽信子は本作の公開前に死去、本作が遺作となった。
物語
大女優・蓉子(杉村春子)は避暑地の別荘にやって来た。出迎えるのは、蓉子とは長い付き合いになる別荘管理の農婦・豊子(乙羽信子)とその娘だ。翌日、牛国夫妻が蓉子を訪ねてきた。妻の登美江(朝霧鏡子)は蓉子と同じ劇団にいた元女優だが、今は重度の認知症にかかっていた。蓉子が「かもめ」の一節を話し出すと登美江もそれに応えるが、また元の状態に戻ってしまう。旅立つ夫妻を見送った蓉子は、豊子から娘が近々結婚することを聞かされ、ある告白を受ける。
こぼれ話
乙羽信子は本作撮影時には癌の為、余命幾ばくも無い状態だった。夫でもあった新藤監督は乙羽の余命についての説明を主治医から受けていたが、乙羽には知らせず撮影に踏み切った。このことについて新藤はエッセイの中で、「乙羽さんが近代映画協会(1952年に新藤らが設立した映画制作会社)で40年もいろいろ仕事やってくれたことに対するお返しとしてもやりたいと思ったし、もし途中で倒れてしまっても、仕事をやって倒れたほうが気もちがいいんじゃないかなと思ったんです」と語っている。