解説
若手刑事とベテラン刑事のコンビが拳銃窃盗犯を追う犯罪サスペンス映画の金字塔。荒く息をする犬のアップから始まる冒頭シーンが印象的。炎天下のもと歩き続け、ひりついた焦燥感をにじませた三船敏郎の熱演が光る。地道に足で情報を得ていくセミドキュメンタリータッチの作風は後の刑事ものに影響を与えた。本作で脚本デビューを果たした菊島隆三が警視庁に通いつめ、「警官が拳銃を紛失することがある」というエピソードを入手した。
物語
終戦後の東京。うだるような暑い日、刑事の村上(三船)は満員のバス車内で拳銃をすられてしまう。その拳銃には実弾7発が込められていた。村上は自分の拳銃をすった女スリのお銀からピストル屋の情報を得る。ピストル屋を探すため復員兵に扮し街をうろつく村上は遂に斡旋屋の女を捕まえるが、強盗傷害事件が発生。使用された武器は村上の拳銃だった。自責の念にかられる村上は、ベテラン刑事・佐藤(志村)とコンビを組み犯人の行方を追う。
こぼれ話
リアリズムを追求するため、闇市のシーンは本当にアメ横の闇市で隠し撮りを敢行している。村上刑事の代役を務めたのは助監督だった本多猪四郎。黒澤監督の盟友であり後に『ゴジラ』など作品を手がけた監督だ。撮影助手の山田一夫が映画撮影用の小型カメラを持ってそのあとを追う形で撮影されたという。当時の闇市は存在自体が違法であり、非常に危険な撮影であったと本多は述懐している。また本作は、映像とは真逆のイメージの音楽をぶつける「対位法」が用いられている。佐藤刑事が撃たれて倒れるシーンでは、キューバの民族舞曲ハバネラの名曲のひとつである「ラ・パロマ」が軽快に流れる。そしてラストシーンでは、その真骨頂ともいえる強烈な対比がみられる。