解説
婚期を迎える長女・紀子に訪れた縁談を機に移ろいゆく家族の姿を描いた珠玉の名篇。小津安二郎監督が細かいエピソードを織り重ねて家族三世代の心の機微を丹念に紡いだ。「紀子三部作」(原節子演じるヒロインの名前が紀子)の2作目にあたる今回は、原節子が現代的な女性を好演。笠智衆、杉村春子、淡島千景が脇を固める。1951年キネマ旬報ベスト・テン第1位。第6回毎日映画コンクール日本映画大賞など受賞。
物語
鎌倉に住む間宮紀子(原)は両親、医者の兄(笠)とその妻、子どもふたりの7人暮らし。大手会社の秘書として働き、休日には女友達と遊ぶ気ままな独身生活を楽しむ紀子だが、家族は婚期を迎える紀子の身の上が心配。そんな紀子の元に、上司から縁談が持ち込まれた。相手は40を超えるが初婚で名家の男性。兄を筆頭に乗り気になる家族たちだが、当の本人はなかなか決心しない。紀子の心中や如何に――。
こぼれ話
ローポジションのフィックス(カメラを固定した)撮影が代名詞ともいえる小津安二郎監督作品だが、珍しく本作では数カットがドリー(移動車)を用いて撮影されている。さらに本作には、全小津作品のなかで唯一のクレーンによる撮影カットも存在する。紀子と史子が浜辺を歩くシーンがそれで、砂地でカメラを設置できないため、あえてクレーンを使用したうえで画面を小津作品的な構図にして撮影している。