解説
1960年代~70年代の東映任侠映画で一世を風靡した高倉健が、85年に東宝で元ヤクザ役に挑んだ意欲作。『幸福の黄色いハンカチ』などを経て「無口の演技」が円熟味を増した高倉の重厚な佇まい、その相手役となる田中裕子の際立った「運命の女(ファム・ファタール)」ぶり、そして高倉の妻役として運命に翻弄されるいしだあゆみの見事な演技が光る。また、当時超人気タレントとして活躍する一方で、役者としても多数の作品に出演していたビートたけしが、本作ではチンピラ的なヤクザ者として味のある演技を見せる。
物語
荒波の日本海を臨む小さな港町。漁師としてささやかに生きる修治(高倉)は、実はかつて大阪・ミナミで”夜叉の修治”と呼ばれて恐れられたやくざ者であった。修治は妹を覚醒剤のために失い、冬子(いしだ)という女性と出会ったこともあり、ヤクザから足を洗った。そして冬子の実家がある敦賀で堅気の人生を送っていたのだった。そんなある日、ミナミから螢子(田中)という子連れの女がやってきて、町で小料理屋を営みはじめる。しばらくすると、その螢子のもとにヒモのヤクザ・矢島(ビートたけし)がたかってきた。矢島は漁師たちに覚醒剤を広め、平穏だった港町に暗雲が垂れ込めはじめる。
こぼれ話
漁村風景の撮影は、おもに福井県美浜市の日向(ひるが)という港町で行われた。劇中で幾度も効果的に使用された美しい石造橋は、その名も日向橋といい、若狭湾と汽水湖の日向湖をつなぐ場所に架けられている(現在ある橋は架け替えられたもの)。作中の重要な舞台となっている小料理屋「螢」は、その橋のたもとがちょうど空き地になっていたので映画隊が借用し、東宝のスタジオで組んだセットの家を現地に運んで組み直したものという。また駅のシーンは、劇中で幾度もネームプレートが登場するとおり、国鉄(現JR西日本)の敦賀駅で撮影されている。